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Cさん夫婦 & 持田建築社長
今回のSTORYデータ
島根県出雲市、一畑薬師参道沿い商店街の空き店舗をリノベーションしてカフェを始めたCさん夫婦。開業のきっかけやお二人の想い、店舗づくりでこだわったポイントなどを伺いました。
DATA | |
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家族構成 | 夫婦 |
築年数 | 60年 |
居住年数 | 4ヶ月(2024年4月竣工) |
建 物 | 木造平屋建て/20坪 |
施工内容 | 外壁・断熱改修、耐震補強 厨房・客席を一新、オープンテラス |
工事期間 | 5ヶ月 |
VOICEs
きっかけは?
「定年退職を機に長年の夢に挑戦」
ご主人:二人とも昔から物づくりが大好きで、20年ほど前から「バターイエロー」という名で木工作家として活動を始め、夫婦で数々の作品をつくってきました。仕事の傍ら、趣味で活動していましたが「いつかは自分たちの店を持ちたい」と考えていたので、定年退職を機に夫婦でセカンドライフを楽しもうと長年の夢に挑戦することにしました。
「バターイエローの作品たち」
籐のバッグはご主人の作品。本物を追求し、尊敬する籐工芸職人の元で伝統技術を学んだそう。二人で作る黒柿のアクセサリーは、形づくりをご主人が手掛け、奥様が金具を取り付ける。木の風合いを活かした手づくりならではのぬくもりを感じる作品。モチーフは同じでも一つひとつが違う表情をみせてくれる。
物件との出会いは?
「ご縁を引き寄せた一畑薬師。一番の決め手は“人”」
ご主人:ここは以前、「ばんびー」というお店でした。参拝客や地元の方々に親しまれていましたが、3年前に惜しまれつつ閉店して以来、空き店舗となっていたそうです。
ある日、ふと思い立って一畑薬師へお参りに出かけました。子どもの二歳児参りに訪れて以来なので約20年ぶりでしょうか。参道に並ぶ商店「もんぜん」の主人は元職場の先輩で、近況を報告すると「物件なら参道の空き店舗はどうか?」と勧めていただいたんです。その後、すぐに一畑薬師の管長にも承諾をもらい、こちらを紹介していただきました。物件探しが難航していたので、思わぬタイミングで話が進み驚きました。
奥様:夫から話を聞いてすぐに現地を確認。宍道湖や大山まで一望できるロケーション、趣のある雰囲気にひと目惚れしました。そして、ばんびーのご店主から60年間夫婦で食堂を営んできた想いや、お客様はもちろん家族や親戚の皆さんとの思い出が詰まった大切な場所であると伺って胸が熱くなりました。可愛がられてきた場所には自然と愛情や温もりを感じます。ここなら自分たちの思い描くお店ができそう!と確信しました。
ご主人:ネットで不動産情報を調べては毎週のように現地を見て回りましたが、自分たちだけで建物の規模や設備、立地条件など全てを満たす物件を見つけるのはとても大変でした。
そんな中、素晴らしいご縁を引き寄せ、望んでいた条件が叶う場所に出会えたのは、きっと一畑薬師さんの御利益ですね。
そして、ここに決めた一番の決め手は、皆さんの温かな雰囲気や人柄に惹かれたことです。一畑薬師の管長をはじめ関係者の皆さん、ばんびーのご店主、商店街の皆さんが笑顔で迎え入れてくださいました。これから、商店街を盛り上げる一員として一体感を大切にしながら、新たな息吹を吹き込み、賑わいづくりに貢献したいですね。
風鈴の音が祝福
二人が訪れたのはちょうど風鈴まつりの時期。一畑薬師の階段をのぼり境内についた瞬間、強い風が吹き一斉に風鈴が鳴り始めたという。この地に歓迎され新たな門出を祝福されたようで嬉しかったそう。
店舗のコンセプト・こだわりは?
「本物にこだわり、好きを詰め込んだ大人の隠れ家で癒されて欲しい」
ご主人:お店は本物にこだわった自家焙煎コーヒーとスイーツ、クラフト雑貨を組み合わせたカフェです。スイーツは厳選した素材を使い、妻が心を込めて手づくりしています。どれも絶品ですが、特にシフォンケーキが人気で多くの方に好評をいただいています。また、店内のクラフトコーナーではオリジナル作品だけでなく、私たちが大好きな島根の窯元や作家さんを中心に選び抜いた作品や日用品、お勧めの特産品などを販売しています。
奥様:日々の暮らしの中でこそ輝く作品たちばかりを集めました。私たちのお店を通じて、魂を込め作品づくりに向き合う作家さんたちの想いに触れ、手仕事の素晴らしさや作品一つひとつに唯一無二の魅力があることを感じてもらえたら嬉しいですね。
奥様:スイーツはケーキ屋さんに並んでいるような煌びやかなものではなく、お母さんが作ってくれたおやつみたいに家庭的な雰囲気を心がけています。お客様が「わぁ~、かわいい!」と喜んでくださると嬉しくて、その度に小さく「ヨシ!」とガッツポーズしちゃいます。
お客様と言葉を交わす時間が大好きで、「癒されました」と声をかけてくださると心が温かくなります。気分が落ち込んだ時はコーヒーを飲んでひと休み!少しでも曇っていた心が晴れて元気になってもらえたら嬉しいですね。何と言っても、夫の淹れるコーヒーは格別の美味しさですから。
ご主人:もともとコーヒー好きでしたが、なかなか納得できるものに出会えず。それなら自分でやってみようと手煎りの焙煎を始めて10年。雑味のない美味しいコーヒーを求め、色々調べ突き詰めていくうちに今のスタイルにたどり着きました。厳選した豆、洗い方、焙煎やドリップ方法、時間、水、温度など全ての工程を通して絶妙なバランスが大事で、それらがきちんと味に反映されます。お客様が「美味しかった」と言ってくださる瞬間が一番の喜びです。
私たちの好きを詰め込んだ大人の隠れ家のような癒し空間を目指しました。冬には薪ストーブでピザを提供する準備もしています。絶景とともに美味しいものを味わう贅沢なひととき。火を囲んでゆっくり寛ぎながら、思い思いの時間を過ごしていただきたいですね。
オープンテラス
オープンテラスはペット連れも可能。お店巡りを楽しんで欲しいという思いで、商店街でテイクアウトした飲食物も持ち込み可能にした。
「Butter yellow Cafe(バターイエローカフェ)」
島根県出雲市小境町2116-2
営業:10:00~16:00(L.O.15:40)
休み:火・水曜日
駐車場:一畑薬師駐車場を利用
持田建築に決めた理由は?
「地元の大先輩で旧知の仲」
ご主人:持田社長とは、地元の平田まつり実行委員会でご一緒してから30年来のお付き合いです。この話が進む中、紹介された施工会社として持田建築さんのお名前が挙がった時には改めてご縁を感じましたね。ためらうことなく、安心して全てをお任せしました。
持田:Cさんがお店を出すと訪ねて来てとても驚きました。以前から一畑薬師の管長に空き店舗を活用できないか建物調査依頼を受けていました。数年違っていたら実現しなかったかもしれないので、Cさんがこのタイミングでこの場所に導かれたことはまさに“結縁”だと思いましたね。
設計のポイントは?
「制約がある中でも要望を叶え最善へ導く提案」
持田:今回の改修は、両隣に繋がって建っていた建物を取り壊すことから始めました。そうなると支えが無くなり弱くなるので、構造のバランスを考えながら耐震補強を行いました。そのため、開口部や壁、柱の位置を自由に動かすことは難しく、ある程度の制約がある中で間取りを考えなければなりません。また、水まわりの位置を大きく変えると費用がかかるので、予算を低く抑えるために動かさないことをお勧めしました。
さらに飲食店は、保健所の規定に沿った造りにしなくてはいけません。なので、”構造バランスを維持するためできる限り原形を変えず、必要な規定をクリアし、さらに二人の要望を反映させた間取りを提案する”というのはなかなか大変でしたね。納得いくまで変更を重ね、9度目の提案でようやく間取りを決定することができました。
「お客様の動線と接客動線がクロスしないこと」
Nさん:柱が1つあるだけでも人の動きは変わります。ここでは、構造上取れなかったトイレ付近の柱を活かし、あえて冷蔵庫を置いて壁をつくることで気になる目線をカットし、人を迂回させる動線をつくりました。ちょっとした工夫で鉢合わせのリスクを回避することができました。
要望や意識したことは?
「憧れのイメージをしっかり共有」
奥様:目指したイメージは、南フランスのプロヴァンス風で素朴な雰囲気の納屋カフェでした。実は作家名と店名になっている「バターイエロー」は、プロヴァンス風の特徴的な塗り壁の色から来ています。外観も内装もイメージが固まっていたので、憧れの空間に仕上がるよう細かく要望を伝えました。外壁の色は配合して作ってもらい、イメージ通りのバターイエローの外観が完成しました。
「内装はセルフリノベーション」
ご主人:内装はデザインにこだわり、陳列棚やキッチンカウンターといった什器は手づくり、照明器具や洗面ボウル、壁付け金具などは事前に購入したものを取り付けてもらいました。
そして、床や壁は自分たちで仕上げました。壁塗りは貴重な機会なので、県外にいる2人の息子家族にも体験させたくて、帰省のタイミングに合わせて工事のスケジュールを調整してもらいました。
持田:仕上がりイメージとやりたいことがはっきり決まっていたので進めやすかったですね。支給品は、あらかじめ確認していたので、壁の下地や器具の取り付けも問題なく施工できました。
記念に残したお孫さんの手形。
出来上がりはいかがですか?
「ばんびーの面影が過去と今を繋ぐ」
ご主人: 私たちの想いが形になった理想の空間が実現しました!持田建築さんとともに、たくさんの職人さんと家族みんなの手仕事で完成したお店。関わっていただいた皆さんとの思い出を振り返るたびに愛着が増します。
外観も店内も以前とはガラリと変わりましたが、柱や梁、窓ガラスなど、ばんびーの面影も残っています。当時を懐かしんで感動されるお客様も多く、この場所が皆さんに愛されていたことを改めて実感します。
奥様:温かみを感じるように、残した柱や梁はできるだけ隠さず見せるようにしました。お客様から梁に残っている大工さんの字や線を見て「味があっていいですね」と言われた時、「やっぱり!やって良かった」と思いましたね。お客様とこの空間の心地良さを共感できて嬉しかったです。
持田:古材にはこれまでの長い歴史が刻まれています。想いや思い出を大切にしたいと、こちらではあえて柱を残しました。過去と今、そして未来を繋ぐシンボルとして、これからも皆さんを見守っていくことでしょう。
一部の椅子はそのまま譲り受け
座面を張り替えリメイクした。
提案はいかがでしたか?
「+αの細やかな配慮で快適な空間に」
奥様:こちらの望みを察して、意図を汲んだ提案してくださいました。例えば洗面台は、高さや幅のアドバイスだけでなく、掃除のしやすさも考えて、洗面ボウルの外へ水が撥ねない位置に蛇口を設置してもらいました。おかげで周りが濡れることはありません。衛生的で、木の天板も傷みにくくなり良かったです。このような細やかな配慮がありがたいですね!
洗面ボウルの角には、夫に石鹸を置く台を作ってもらいました。コンパクトなスペースの中でも、いかにストレスなく動作できるか考え工夫しました。
かわいく仕上がったトイレを気に入っています
奥様:バターイエローカラーのクロスとウィリアムモリスのクロスを合わせて明るい空間にコーディネートしてもらいました。お気に入りの照明器具は、位置を中央ではなく、角に寄せることでオシャレな印象に。かわいさが引き立つ提案をしてもらい大満足です。
ご主人:カフェスペースの天井板は、持田社長が私たち好みのイメージにぴったりな材料を用意してくださいました。その中から気に入ったものを夫婦で選ばせてもらえたのは嬉しかったですね。
STORYはつづく
リノベーションを通して感じたことは?
「夫婦二人で新たな人生をスタート、ご縁に感謝し地域創生に貢献したい」
奥様:忙しい毎日ですが、ここで過ごす時間が楽しくてたまりません。ずっと夢だと思っていたことが叶ったので、ふと「本当にお店つくったんだよね?」と疑うことも(笑)。美しい景色を眺めながら、二人でコーヒーを飲み一息つくたびに喜びを噛み締めています。実は誰よりも私たち自身がこの場所に癒されていると思います。
ここまで不安もありましたが、その度にアンパンマンの歌を思い出し、「喜び、幸せとは?どう生きるか?」自分に問いかけては、心を奮い立たせてきました。そして、思い切ってこの世界に飛び込み、新たな生き甲斐を見つけることができました!本物の手仕事でつくり出されたものは、傷も愛おしく、古くなって朽ちていくことも味わい深く魅力を感じます。このお店も私たちの人生も、これからじっくり味わいが増していくと思うととても楽しみです。
ご主人:妻の支えが大きな力になりました。お互い無理せずやっていきましょうね。この場所で「これから先も夫婦二人の楽しい毎日が続いていく」そう思えたことが一番の幸せです。
こうやって夢が叶ったのは、これまで関わっていただいた全ての皆さまのご支援のおかげです。そして、持田建築さんには私たちのわがままをたくさん聞いていただきました。本当にありがとうございます。終始、素晴らしい建築技術を見せていただき、日本の木造建築の魅力や伝統技術継承の大切さだけでなく、地域の未来にも目を向けて色々なことを見つめ直すきっかけにもなりました。
おかげさまでオープンから数か月経ち、たくさんのお客様にお越しいただいています。一畑薬師が大好きで頻繁に通う方もいれば、私たちの店を目指して久しぶりにお参りしたという方まで様々。初めて訪れる方も多く、皆さん「こんなに良いところだったんだ!」と驚かれます。私たちが惚れ込んだこの場所をもっとたくさんの方に知って欲しいので、興味をもって足を運んでもらえるように、これから色々な取り組みや魅力発信をしていきたいですね。